グアム・サイパン太平洋の伝説


恋人たちの物語

恋人たちの物語 THE TALE OF TWO LOVERS ①

 昔、スペインがマリアナ諸島を支配していた時代に、敵同士にあたる二つの家族が住んでいました。
 お互いの家族の確執は、昔から非常に長く続いてきているので、周りの者達は、一体何が原因で争いが始まったのか、よく覚えていないほどです。

 ある人々は、昔に土地を交換する時に条件が合わずに揉めたんだ、とか、またある人々は、悪霊達が家族にとり着いて互いの家族に悪さをしているのさ、などと言っていました。

 これまで何で喧嘩を続けて来たのか、原因すら今では誰にも分からなくなっていましたが、それでもこの二家族は、先祖代々から受け継がれた互いへの憎悪と怒りの感情を抱き続けて、今まで生きてきました。彼らはあらゆる種類の社交付き合いもしなかったのです。

 彼らは当然、自分の子供達も他の人間を一切信用せずに軽蔑をして、自分の家族にのみ忠実に従うだろうと考えていました。
 エレナは村のすぐ外側にある家に、父親と6人の兄達と一緒に住んでいました。
 彼女のお母さんはエレナが今から3年前、エレナが15歳の時に亡くなった為、その後はエレナが6人の兄達と父親の世話をしてきました。エレナは家族の為に非常に良く働き、そして彼女自身、家族の為につくす事を誇りに思っていました。

 ある曇った日、エレナの父親と兄達が釣りに出かける為にカヌーを準備しました。エレナは父親にパンダナスの葉で包んである束を渡しました。
 「お父さん、皆で食べるランチはここに準備してあります。波がとても荒いので、どうか気を付けて。」エレナが心から家族を思う気持ちが言葉に表れていました。
 父親は心優しい我が娘の目を見てこう言いました。
 「エレナ、十分に注意して行くから心配はしないで大丈夫だ。水面がガラスみたいにスムースじゃない時の方が、魚達を追い込むのは簡単さ。」
 父の暖かい言葉にエレナの緊張が和らぎました。エレナは笑顔を返し
 「これから教会へ行って、父さん達の大漁と航海の無事を祈って来ます。」
 その時、兄達が全員家の中へ入ってきました。
 「さあ出発するぞ!」

 エレナはドアの側に立ち、彼らが歩いて珊瑚礁へ辿り着くまで見守っていました。そして反対側の村へ続く道に向かって歩き出しました。これから彼女は家族の為に祈りを捧げに行くのです。

ジョセフはエレナとは敵対する一族の家族同士でした。そのジョセフはいつもエレナが村を通って教会へ行く姿を見ていました。

 彼は絶対に彼女と話をする事は出来ないとわかっていました、けれど彼女の持つ清楚な美しさ、そして優しさや愛情のオーラが以前にも増して醸し出されているのを見て、知らない顔をする事は出来ませんでした。