恋人たちの物語 THE TALE OF TWO LOVERS ②
ジョセフは教会の裏側で父が来るのを待っていました。そこへエレナが静かに歩いてきました。彼女は聖ピーターの像の前に来ると、跪いてお祈りを始めました。
ジョセフはじっと聞いていました。
「聖ピーター」エレナは祈り始めました。
「どうか海へ漁に出かけた私の家族をお守り下さい。あなたは昔漁師でした、それならば海で起こるあらゆる危険について良く知っている事でしょう。どうかあなたの魂と力を彼らに宿し、賢明な智恵を貸して導いて下さい。」
エレナはそれから数分間、頭を垂れ彼女にしか聞こえない声で祈りを唱え続け、静かに祈りを捧げました。そしてすっと立ち上がると、キャンドルを灯す為にそのままメリーの銅像まで歩いて行きました。ジョセフは彼女に付いて行き、彼女の言葉を聞きました。
「マリー、ジーザスの母上様。どうか魂の世界にいる私のお母さんそしておじいさん、おばあさん達を見守って下さい。」彼女は頭をもう一度深く下げました。
エレナが教会を後にしようとした際、彼女はジョセフを見つけました。ジョセフの事はこれまでにも何回も見かけた事がありましたが、彼とは一言も話してはいけないと言う一族の言い付けに従ってきました。それでも、エレナはジョセフの事を何てハンサムで、心が優しく、そして強い男性なのだろう思っていました。
彼女は驚きました。ジョセフは初めて、エレナに向かってこう言いました。
「エレナ、僕に家まで送らせてくれないか。帰り道は危険だ。盗賊が出ていると言うし、雨も降り出した。決して一人で歩いて帰っては行けないよ。」
エレナは教会のドアに通じる道にちらっと目を向けました。雨は本当にかなりな土砂降りです。しかし、彼女は父の言いつけを思い出して、とっさに泣きだしました。
「もちろんそんな事は出来ません!あなたが私の家に来るなんて絶対に有り得ません。」
「もし私達が話をしている所を誰かに見られでもしたら、私の家族はとても怒るわ。全員で恥をかく事になってしまうのよ。」
そして彼女は下を向き優しい声でこう言いました。
「でも・・・本当はこんな風でなければ良いと思っているわ。」ジョセフはエレナもまた、この瞬間が続いて欲しいと思っている事を感じ取りました。
彼は咄嗟に 「また明日ここで会おう!」エレナは頭を大きく振りました。
「あなたのいう事は嬉しい。でもあまりに危険すぎるわ。」エレナが答えると、ジョセフも同意しました。
「わかっている。ならば銅像の後ろにメッセージを残しておくのはどうだろう。それなら怪しまれる事はないよ、だって君はいつもここにお祈りに来ているのだから。」
エレナは顔をあげました。2人は互いに笑顔を交わし、そして長い事、お互いあの事を見つめ合いました。まるで小さな奇跡が起きたかの様に、2人は互いに強く、素晴らしい絆を感じていました。
彼らはどんな事が起きても、互いを引き離す事は出来ないと悟りました。